JKの家

将来の黒歴史

『この指がISから街を守った』感想

 Wikipediaの編集者は、その殆どが白人の知識人層であるらしい。私がそれを知ったのはアメリカのインディアンのことを調べていた時だったと思うが、恐らくISとそれにまつわる種々の諸々についても当てはまるだろう。今何が起こっていて、何が問題なのかを知ることは簡単だ。しかしそれを当事者が何を考えどう行動しているのかを知ることは難しい。

 この本はIS(イスラム国)と戦闘を繰り広げたクルド人スナイパーの手記である。クルド人とは地球上で国を持たない民族の中で最もその数の多い人種である。彼らは国こそ持たないがティグリス川とユーフラテス川に挟まれた先祖由来の地で外国人として暮らしている。そこをISが占領したため、解放を目指し戦っていたというのが本作の概要だ。

 本作を読んで驚いたのは男女平等のあり方だ。クルド人部隊は男女関係なく作戦を行う。しかしそこにある男女平等は我々の思うような、男性社会に女性が女性であることをハンデにならないよう組み込むものではなく、男性は男性で女性は女性で集団を作り指揮系統を整え、別の組織として互いに協力する私が今まで見た事のない形の平等であった。対等を前提とした社会を構築しているのだ。

 彼らは現在も自由を求めて戦っている。自由という言葉は我々のような自由の中にいる人間にとっては理解し難いものであり、何を指しているのかを明確に理解している人は少ないように思う。

 筆者はイギリスに亡命した生活の中で自由について「イギリスでは、ある日目を覚まして、作家になろうと決意することはまったく普通のことなのだ。自由とはこういうことなのだろう」と綴った。私はこれを読んで初めて自由でないとはどういうことなのかを理解した。

 本作は、テレビでアナウンサーが現地の人にインタビューして聞いた事を日本語で伝え、池上彰が解説する戦争ではなく、戦争の中にいるに人が自分の言葉で自分の目で見た戦争を綴ったものだ。何がどういう対立や利害の関係で起こっているのかを知ることは現代では容易い。だからこそ一人称での現代の紛争を知ることは奇貨となるのではないだろうか。